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仙台高等裁判所 平成元年(ラ)6号 決定 1989年4月05日

抗告人 株式会社フジノ商店

上記代表者代表取締役 柴藤克己

上記代理人弁護士 佐藤興治郎

仙台地方裁判所古川支部昭和六三年(ケ)第八〇号不動産競売事件につき、同裁判所が平成元年一月二五日に言渡した売却許可決定に対し、抗告人から執行抗告の申立てがなされたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告人は、「原決定を取り消す。山城誠一郎(持分三分の二)及び山城誠吾(持分三分の一)に対する原決定添付目録記載の不動産の売却を不許可とする。」との決定を求めた。その理由とするところは、別紙のとおりである。

二、本件記録によれば、抗告人は、原決定添付目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の期間入札について、平成元年一月一一日、入札人欄には、住所として「志田郡三本木町蟻ケ袋字混内山一五番地の二」と記載され、氏名としては、抗告人の「株式会社フジノ商店」の商号は記載されておらず、「代表者代表取締役柴藤克己」とだけ記載され、また、「株式会社フジノ商店代表者代表取締役社長印」と記載されている印鑑が押捺されている入札書(以下「本件入札書」という。)を提出したこと、原審執行官は、同月一八日の開札期日において、抗告人の本件入札書による入札を無効とし、原審は、これを前提として、同月二五日、次順位の山城誠一郎(持分三分の二)及び山城誠吾(持分三分の一)に対する本件不動産の売却許可決定の言渡しをしたことが認められる。

三、ところで、民事執行規則四九条において準用する同規則三八条二項一号は、期間入札の入札書に入札人の表示を記載すべき旨を定めているが、この入札人の表示は、入札における買受けの申出の効果の帰属する者の特定のために必要であるから、入札人が法人の場合には、その表示として、その名称、主たる事務所、本店所在地及び代表者の氏名を記載すべきであり、少なくともその名称及び代表者のいずれかを欠く入札書は、無効とすべきである(ちなみに、仙台地方裁判所の期間入札実施の事務処理要綱では、入札人本人又は代理人の氏名の記載がないもの、入札人が法人の場合で、代表者の氏名の記載がないものについては、いずれも開札に加えない処理をしている。)。

そして、一般に、開札期日においては、多数の事件ないし物件が処理されなければならず、また、多数の利害関係人が関与することが多いから、開札手続は、簡易、迅速に行われ、かつ、その安定性、明確性及び公平性が保持されることが必要である。そのためには、入札書の入札人の記載は、入札における買受けの申出の効果の帰属する者の特定のために必要であることに鑑み、解釈の余地を入れない一義的なものであることを要し、入札人の特定は、この記載のみに基づき、形式的、画一的にされるべきであって、執行官が他の資料を参酌することによりこの記載を解釈し、入札人の意思を推測する必要はなく、むしろ、そのようなことをすべきではないというべきである。

これを本件入札書についてみると、前記のとおり、その氏名欄に、抗告人の「株式会社フジノ商店」の商号は記載されていないから、法人である抗告人を入札人とする入札書としては、無効と解するほかない。もっとも、前記入札人欄には、「柴藤克己」の肩書に「代表者代表取締役」と記載され、「株式会社フジノ商店代表者代表取締役社長印」と記載されている印鑑が押捺されているが、これをもって抗告人の名称が記載されているものと解することは相当でない。

抗告人は、本件入札書に添付された抗告人の商業登記簿謄本、原審執行官作成の抗告人宛の本件入札書の受領書、抗告人宛の入札保証金振込証明書、振込金受取書を合理的に解釈すれば、本件入札書は、抗告人による入札であることが明らかであると主張するが、前記説示したところによれば、本件入札書の入札人の記載をこれらの資料を参酌して、抗告人主張のように解釈することは相当でない。

なお、平成元年一月二五日の売却決定期日に抗告人代理人が陳述した意見書には、抗告人は、原審執行官に対し、本件入札書の入札人欄と同じ記載をした控えを見せて指導を受け、その了解のもとに本件入札書を提出した旨の記載があるが、そのような事実を認めるべき資料はない。

四、以上によれば本件入札書の無効を前提としてした原決定に抗告人主張の違法はなく、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 糟谷忠男 裁判官 渡邊公雄 石井彦壽)

<以下省略>

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